そのためパンサラッサの中心では食物連鎖の基盤となる植物プランクトンが極端に少ない環境だった可能性があるのです。そしてプランクトンが少ないと、水の透明度は非常に高くなります。
沿岸部は多様な生物が集まる豊かな場所だったと考えられますが、超大陸パンゲアから離れた海は、水が透き通るほどきれいで、生き物がほとんどいない“海の砂漠”だったと推測されるのです。
こうした予測は、現代の海洋にある「海の砂漠」から示されています。
現代において大陸から遠く離れた巨大な外洋というと太平洋が思い浮かびます。たとえば、ハワイ周辺の太平洋亜熱帯循環域はその代表例です。ここでは海水が非常に澄んでおり、美しく見えますが、実際は栄養塩が乏しく、植物プランクトンの量が極端に少ないという状況です。
その理由は、太平洋の中心部は大陸から遠く、川からの栄養が届かないことと、亜熱帯循環によって表層の海水が閉じた系になっており、深海からの栄養も遮断されているためです。
そのため魚もあまり集まらず、大型の生物も育ちません。
このような条件は、パンサラッサ海のような過去の広大な外洋にも当てはまると考えられています。つまり、現代の外洋の観察を通じて、超大陸時代の海洋の姿を間接的に再構築できるのです。
パンサラッサ海を航海したらどんな感じになるのか?
パンサラッサ海は「静かな海」だったのか、それとも「激しい海」だったのか、この問いに対して、研究者たちはいくつかの手がかりを持っています。
まず、パンゲアのように大陸が集中すると、海洋における温度差や塩分差が少なくなり、結果として海流の形成が弱くなる傾向があります。
実際、シミュレーションでは、パンゲア時代の海は深層循環が鈍く、酸素が海底に届きにくかった可能性があると示されています(Hotinski et al., 2001)。
これは「スーパーアノキシア(超貧酸素)」と呼ばれ、生命にとって非常に厳しい環境です。