分析の結果、2005年より前の試合では「赤の優位性」の効果は確認されたのに対し、2005年以降の試合では「赤の優位性」の効果は確認されなくなったのです。

なぜ「赤の優位性効果」が消失したのでしょうか。

その理由として、いくつかの要因が考えられるでしょう。

まず第一に、2005年以降に「赤が有利である」という研究結果が広く知られるようになったことで、選手や審判がその情報に基づいたバイアスの存在を意識するようになった可能性があります。

これにより、意識的または無意識的に「赤に有利な判断」を補正しようとする心理が働いたと考えられます。

次に、スポーツの競技ルールや判定制度の進化も影響しています。

たとえば、テコンドーでは電子採点システムやビデオ判定の導入が進んでおり、審判の主観的な判断が介入する余地が以前より少なくなっています。

これにより、赤いユニフォームを着た選手に対する「視覚的な印象」が判定に影響を与える可能性が減少したと言えるでしょう。

最後に、赤の優位性効果を提唱した2005年の研究自体に関する統計的な限界も指摘されています。

英ダラム大学のラッセル氏らの研究は興味深いものでしたが、サンプルサイズが小さかった可能性があり、偶然の偏りや当時の特定条件に依存していた可能性も否定できません。

では、「勝率を少しでも上げたいなら赤の競技服を選ぶべきだ」というアドバイスは、もはや間違っているのでしょうか。

一概にそうとも言い切れません。

たとえば、独ミュンスター大学のヤニック・ヴァイサ(Jannik Weißa)氏らは、サッカーやバスケットボールといったチームスポーツから、陸上競技などの個人競技に至るまで、オリンピックの試合に限定されない幅広い競技と大会を対象に、競技服の色が選手のパフォーマンスや試合結果に及ぼす影響を検証したメタ分析を行っています。

その研究によれば、競技服の色は確かにパフォーマンスに一定の影響を与えると結論づけられています。