たとえば「昔のゲーム画面を見ただけで当時の部屋の匂いや、友達と遊んでいたときの天気まで思い出す」といった経験は、多感な脳の働きによるところが大きいのです。

さらに社会的文脈においても10歳前後は重要な時期です。

子ども時代は、家族や友達、学校など、生活圏がシンプルかつ閉じられた世界になりがちです。

ゲームで遊ぶときも「友達の家に集まってみんなでやる」「家族で一緒に楽しむ」といった形で、周囲とのコミュニケーションが深く絡み合います。

大人になるとゲームは一人でプレイしたり、オンラインで知らない人とマッチングして遊ぶ機会も増えますが、子どもの頃のような“身近な仲間との密接な思い出”は得がたいものになります。

結果的に、10歳前後のゲーム体験は、家族や友だちの顔までも一緒に脳裏に浮かぶような強いノスタルジーを誘発しやすくなるのです。

これらの要因が重なって、10歳前後の体験は大人になってからでも色あせない“かけがえのない記憶”として残りやすくなります。

古いゲームの起動音を聞いただけで“あの頃”に気持ちが一気に戻ってしまうのは、まさに自我意識の芽生え時期にできた“強烈な記憶のしこり”を刺激するからだと考えられます。

たとえ最新のハイエンドゲームであっても、最初に触れたあのときの衝撃には勝てない――そんな言葉が聞かれる背景には、こうした心理学・脳科学的メカニズムがあるのです。

今回の研究は、プレイヤーの実際のプレイデータに基づいてこれらの傾向を数字で示したところに大きな意義があります。

これによって、「ノスタルジアが多くの人の心を動かす」という感覚的な話題に対し、「どの年代が、いつ頃のコンテンツを、どれほど遊んでいるか」というより精密な視点が加わりました。

今後さらに、ゲームの保存やリメイクに力を入れる企業が増えることで、レトロゲーミングの市場は加速していく可能性があります。

また、高齢化するゲーマーの新たな余暇活動として、あるいは「親が子どもに昔のゲームを教える」などの交流手段としても、一段と注目を集めそうです。