なかでも10歳前後は、小さい子どものように受動的に世界を眺める段階を抜けだし、自分で物事を選んで行動し始める時期でもあるため、「自分が好きで、夢中になってやっていたもの」が特に記憶に残りやすいと考えられています。
子どもは10歳前後になると、ただ“与えられたものを楽しむ”のではなく、自分で「これが面白い」「あれは好きじゃない」と判断できるようになっていきます。
心理学の視点では、この頃から他者との比較や自己認識が発達し始め、趣味嗜好をより主体的に形成していくのです。
つまり、自分の“好き”や“楽しい”を自分自身が積極的に選び取っている感覚が強く、同時に感情も大きく揺さぶられます。
そうすると、「あれが好きだった」「あのとき大興奮した」というエピソードが、強い感情と結びついて記憶に深く刻まれやすくなるのです。
また10歳前後は多くの人が初めて“本格的に”何かにハマる時期でもあります。
スポーツや音楽、ゲーム、漫画など、すごく好きになるものが初めてできると、それが「衝撃」として脳に鮮明に焼き付きます。
専門用語で「初期衝撃(initial impact)」という表現が用いられることもありますが、この“最初の強い感動”が大人になっても思い出をよみがえらせる強力なトリガーとなりやすいのです。
ゲームで言えば、ファミコンやスーパーファミコンのゲームが初めて家にやってきたときのワクワク感は、後から登場した高性能ハードよりも深い印象を残す――そういう人が少なくありません。
脳科学的には、「海馬(かいば)」と呼ばれる記憶を司る部位が徐々に成熟する時期とも重なっています。
海馬の成長期にあたる子どもの頃は、ある意味で“新しい記憶を定着させる力”がとても活発な状態です。
大人になると情報はより論理的に整理されていきますが、子どもの頃の記憶は感情や五感と結びついて保存される傾向が高いという研究報告があります。