一方でメタ認知が低い人は、サイレンの音量を下げるどころか、どんどん大きくしてしまう傾向があるのかもしれません。

実際、脳の報酬回路まで一緒に盛り上がってしまうので、「自分が正しい」という状態それ自体が、“快感”や“達成感”に似た満足を与え、ますます意見を覆すのが難しくなる可能性を指摘しています。

こうした仕組みは、社会のさまざまな問題の背景にも関係していると考えられます。

たとえば、ネット上で激しい議論が起きるとき、「あの人たちはいったいなぜあれほど頑固なのか?」と思うことはないでしょうか。

相手にモラルがないわけではなく、むしろ強い道徳的確信があるゆえに、「自分が正しい」というサイレンが止まらなくなっているのかもしれません。

そこに自己認識力というブレーキが備わっていなければ、対立は一気にエスカレートしてしまうわけです。

正義感や道徳心は、本来、社会を前に進める大切なエンジンです。

ただ、そのエンジンがいくらパワフルでも、ちゃんと停止やスピード調整ができないと危険になるのは当たり前のこと。

つまり、自分の正義を声高に叫ぶだけではなく、それを客観的に見直す冷静さがあってこそ、私たちは多様な意見と折り合いをつけつつ前へ進めるのかもしれません。

これは、政治対立の場でも、SNSでの口論でも、さらには日常のちょっとした意見の食い違いでも変わらない大切なポイントと言えるでしょう。

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元論文

Moral conviction interacts with metacognitive ability in modulating neural activity during sociopolitical decision-making
https://link.springer.com/article/10.3758/s13415-024-01243-3

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。