3月、環境保護庁(EPA)のゼルティン長官が危険性認定(Endangerment Finding)の見直し作業の開始を発表した。危険性認定とは大気浄化法(CAA)の下で、温室効果ガス排出が公衆に危険をもたらすと政府が認定するものであり、オバマ政権期の2009 年12月に環境保護庁(EPA)が認定し、この下で自動車や火力発電所への規制が実施されてきた。
見直しの結果、これが撤廃されれば、様々な環境規制の根拠がなくなる。これには当然、訴訟が提起され、訴訟が提起され、最終的には最高裁で争われることになる。これについては「温室効果ガスの人類への悪影響については膨大な科学的知見が蓄積されており、保守派6、リベラル派3の最高裁であってもこれを覆すことはできない」との見方がある。
他方、2024年に最高裁はシェブロン法理(Chevron Deference)の否定と重要問題法理(Major Questions Doctrine)という2つの重要な判断を出している。
前者は「法律の曖昧な部分の解釈は規制当局に認め、現場の複雑な事情については行政の専門知識と判断を優先する」という過去40年続いてきた判断を覆すものであり、後者は「議会が与えたと合理的に理解できる範囲を超えた非常に大きな影響力を持つ権限を行政機関が持つことはできない」というもので、これを根拠にオバマ政権のクリーンパワープランが否定された。
こうした最近の最高裁の動きと併せ、「米国内の温室効果ガスを規制しても地球温暖化問題へのインパクトは微々たるもの。汚染物質の規制により地域環境の改善を目指す大気浄化法の趣旨に合致しない」との議論を展開すれば、最高裁で危険性認定の撤廃が認められる、それにより、民主党政権復活の場合でも温室効果ガス規制をふせぐことができる、というのがトランプ政権の目論見だ。
この問題は規制対象となる企業にとって大きな不確実性をもたらす。「現在の温室効果ガス規制がなくなるかどうかわからないならば、それを前提に固めの対応をしておいた方が得策だ」という判断になり、トランプ政権が期待する事業環境の変化にはつながらないかもしれない。