この現実が虚像であるとする考えは、プラトン以降さまざまな哲学に継承され、現代では宇宙の全てがシミュレートされた存在であるとする「シミュレーション仮説」にも取り入れられています。
シミュレーション仮説を支持する人々は、私たちの存在や現実が唯一無二であるよりも、高度な文明によってシミュレートされた無数の世界の1つであるほうが「確率が高い」と主張します。
しかし、私たちの世界がシミュレーションされたものであるのか、そうでないのかを知るには、どうしたらいいのでしょうか?
世界の外に通じる扉(あるいはログアウト画面)のような物的証拠があれば話は簡単です。
ただリクエストしても出現しないことを踏まえると、(たとえ存在したとしても)内部からの働きかけで発見するのは、まず不可能でしょう。
またシミュレーションの完成度が高ければ高いほどバグの頻度も低く、観測は困難となります。
そこで今回、ポーツマス大学の研究者たちは、世界のほころびを探すのではなく、状況証拠を集める方針を採用しました。
そのための方法として採用されたのが「情報力学の第2法則」です。
情報力学では情報は物理的な存在として扱われる

情報力学は情報の定量化や保存、伝達にかんする数学的な研究をもとにしており、第2法則では「宇宙で起こる現象は時間の経過とともに、情報エントロピーが維持されるか減少する」とされています。
一見すると難しい概念に思えますが、そんなことはありません。
まずエントロピーですが、エントロピーとは状態の無秩序さを数値化したものであり、大きな値であるほど、状態が混沌としていることを示します。
また情報力学における情報エントロピーは取り得る状態数、すなわち情報量に大きくかかわります。
つまり情報力学の第2法則をザックリと言い換えると「宇宙では時間経過とともに情報が圧縮されていく傾向にある」となります。