なぜこの研究が革新的なのか?
尻の先端の「ふた」を駆使して獲物を捕らえる寄生バチは、現生の昆虫でも報告例がなく、化石から直接わかったのは今回が初めてです。
しかも、開閉の異なる状態で保存された複数の標本を比較したことで、この構造の仕組みを具体的に復元できた点が画期的といえます。
白亜紀の昆虫が現代に匹敵するほど多様な捕獲システムを進化させていたことを明確に示す事例であり、“からだ”そのものが巧みに獲物を挟む仕掛けを約9900万年前から備えていたという事実は、昆虫進化の見方を変える発見です。
寄生バチが語る失われた捕獲戦略
今回の化石寄生バチ(Sirenobethylus charybdis)が見せる“おしりで獲物を挟む”戦略は、現生の寄生バチでも報告がありません。
一般的には前脚や顎を使ってホストを制圧したり、麻痺毒で動きを止めたりするのが寄生バチの定番ですが、腹の先端を丸ごと捕獲器に変えてしまうという発想は、まったく別の進化の道筋を示しています。
また、開閉を可能にする筋肉の痕跡や、長い毛(トリガーヘア)によって瞬時にスイッチが入る仕組みがすでに白亜紀に完成していた点も驚きです。
なぜここまで特殊な器官が進化したのかは、相手となる獲物や生息環境の影響が大きかったと考えられます。
現代のドライニッドバチがはさみ状の前脚で素早くヨコバイを捕らえるように、この化石バチはおしりで静かに待ち伏せし、獲物が接近した瞬間にパチンと挟む“待ち伏せ型”だった可能性が高いのです。
白亜紀は、花粉を運ぶ昆虫の登場や被子植物(花をもつ植物)の多様化など、大きな変革期に当たります。その激動の時代にあって、昆虫同士の攻防や共進化が予想以上のペースで進んでいたのかもしれません。
実際、サーベルのような大顎をもつ絶滅アリや、カマキリのように変化した前脚をもつ昆虫の化石など、現生にはない形態が次々と見つかっています。