望遠鏡のなかの度盛がいくら動いたって現実世界と交渉のないのは明かである。野々宮君は生涯現実世界と接触する気がないのかも知れない。……自分もいっそのこと気を散らさずに、活きた世の中と関係のない生涯を送って見ようかしらん。

31頁(三四郎の主観)

そんな学者がやっぱり世間でもウケたい! という欲に憑かれると、どうなるか。社会の全体が「好き嫌い」の二択にハマった瞬間に、自分の専門を結びつけて売り込むようになるわけです。「みなさんウイルスは怖いですよね? なら……」とか、「ロシアは嫌いですよね! なら……」とか。

ダブスタが過ぎるんじゃね? と思うでしょうが、必然的にそうなるのです。アメリカのトランプ現象を典型に、世界のどこでも「大学教授は信じねぇ、そいつらの応援はむしろマイナス」な反知性主義が勃興する理由もまた、そこにあります。

前回の記事のとおり、ゼレンスキーを口論でボコった副大統領バンスになると、ずばり「大学は敵だ」ですからねぇ……(21年11月の講演)。

もう100年以上も前、自身がメンタルに苦しみつつ、大学と「知性」の未来を見抜いた夏目漱石は、なにが処方箋になると考えたのか?

代表作3つを読み解きながら、いま眼前に迫る喫緊の問いを、じっくり「考える」講義となっております。多くの方がご視聴下さるなら幸いです!

編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2025年3月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。