調査にあたってはまず普通の実験ではなかなか見えない特殊な条件での「原子たちの動き」に目がつけられました。

地上の実験室で高い圧力をかけても、それを詳細に観察するのはとても難しいからです。

そこで彼らは、量子化学シミュレーション(第一原理計算)と機械学習を組み合わせるという、“デジタル実験”を始めました。

いわばコンピュータの中に超高圧・高温の世界をそっくり再現し、そこで何が起きているのかを仮想的に観察しようとしたのです。

さらに、めったに起こらない反応やすぐに消えてしまう中間的な状態を捉えるために「メタダイナミクス」という特殊なテクニックを使い、まるでスローモーション映像のように反応の一瞬一瞬を追跡することに成功しました。

その結果でいちばん驚いたのは、水がものすごい圧力と高温にさらされると、H₃O⁺やOH⁻などのイオンをたくさん生み出して「超酸」と呼べるような状態に変わっていたことです。

地上の何十万倍もの圧力と数千度という熱のもとでは、水分子が思いのほか簡単にバラバラになり、隣のメタンをCH₅⁺という不思議なイオンへと変えてしまいます。

CH₅⁺は、炭素に5本もの“手”があるようなイメージで、ふつうの条件ではほとんどお目にかかれない姿です。

そこからさらにH₂が抜けると、CH₃⁺という攻撃的なイオンが生まれ、近くにいるメタンや水分子と次々に反応していきます。

こうした“プロトン(H⁺)のやりとり”がきっかけとなって、炭素が連続的につながり始めるわけです。

シミュレーションを続けると、メタンが鎖のように連なったエタン・プロパンをはじめ、枝分かれした複雑な構造へと成長する様子が次第に明らかになりました。

そしてついには、炭素原子が四方をすべて他の炭素で囲まれた“ダイヤモンドの骨格”に近い形が出現し、水が超酸として炭素結合を強力に後押ししているシナリオがはっきり浮かび上がったのです。