疑問に迫るため、研究チームは大学生年代のエリートトライアスリート13名を被験者に選びました。
過酷なトライアスロンでは身体の持久力だけでなく、予想外の事態に瞬時に対処する判断力が求められるからです。
実験は、以下の3つの状態を用意して、それぞれの直後に認知テストを行うという方法で進められました。
1つめは排便しない状態、2つ目は自主的に排便した状態、3つ目は酸化マグネシウムを摂取して排便を促した状態です。
またテストには“ストループテスト”が用いられました。
これは、文字と印刷された色が一致しない場合でも正しい色を即座に言い当てる認知課題で、注意力と判断力が試されます。
通常、脳の前頭部にセンサーを装着して血流や酸素消費を測ることは一般的ですが、本研究のユニークな点は、下腹部(臍下付近)にも近赤外線分光法(NIRS)を取り付け、脳以外の部位が認知テスト中にどのように活動しているかをリアルタイムで追跡したことです。
先に行ったPETスキャンで、直腸近くの下腹部が脳と同程度にブドウ糖を消費している可能性が示唆されたため、このような大胆な計測が試みられました。
結果は非常に明確でした。
排便しない状態でのストループテスト平均完了時間は約27.1±1.1秒でしたが、自主的に排便した状態では約24.4±0.9秒、酸化マグネシウムで排便を促した状態ではさらに短縮して約23.4±0.8秒。
いずれも有意に差があると報告され、「排便することで認知作業が速くなる」ことが統計的にも裏付けられたのです。
特に酸化マグネシウムを用いた場合は、ほぼ全員が成績向上を示し、「排便の質」を高めることがパフォーマンスをさらに押し上げる可能性が示唆されました。
また、NIRSで計測したところ、テスト中の酸素飽和度は脳より下腹部の方で顕著に低下(=それだけ酸素を消費)しており、下腹部の神経系が“積極的に考えている”かのような興味深いデータが得られました。