アクティビストの常套句
軍需事業売却は、経営陣だけの判断ではない。株主(アクティビスト=物言う株主)の意向が強く反映されている。当時の、“Boston Business Journal(bizjournals.com)”は、
「物言う株主の要求に屈した」
と厳しい表現で報じている。ここでいう「物言う株主」とは、ロサンゼルスを本拠地とするアクティビスト“レッド・マウンテン・キャピタル・パートナーズ”である。彼らの提案は以下のようなものだった。
軍需事業を売却すること 消費者向け掃除ロボット事業に注力すること 1億ドル以上の自社株買いと定期配当を検討すること
「これらを実施すれば、iRobot社の市場価値は短期間で50%上昇する」
この物言いには既視感がある。そう、セブン&アイに対し、イトーヨーカドー売却とセブンイレブンへの注力を促したアクティビスト“バリュー・アクト”の主張にそっくりだ。
アクティビストたちは「単一事業の企業」を好む。複数の事業を内包している多角化企業(コングロマリット)を嫌う。なぜ儲かっているのか「わかりにくい」から。投資家の好みではない事業が含まれると「売りにくい」からだ。
単一かつ高利益事業に集約することにより、売りやすくなり、買いやすくもなる。だから、アクティビストたちは、会社を分割し単一事業化することを提案する。単一事業はアクティビストたちにとって好都合なのだ。
だが、単一事業化は、経営者にとってデメリットが多い。一つは、先に述べたシナジー(相乗効果)がなくなること。もう一つは、リスクが分散できなくなることだ。自社唯一の事業で危機に陥ると、生き残ることが難しくなる。
今、唯一の事業で危機に陥っているiRobot社。襲い掛かるのは中国勢だ。バッテリーを手掛けるアンカー(Anker)、スマートフォンを手掛けるシャオミ(Xiaomi)、掃除機全般を手掛けるドリーミー(DREAME)など、複合企業も含まれる。彼らに対抗し、生き残ることができるだろうか。