「進んで公益を広め、世務を開き」:公益の幸福を計り、世に必要な事業を興して、一般国民の生業を開くべきである。
「歴代の天皇、公益を広め世務を開き給ふ」:慈愛の心に富む歴代天皇は、率先して民の公益を広め、世務を開かれた。であるから、臣民たるものが公衆の利益を広め、世務を開くために公衆の智能の啓発に資し、不幸の人を救い、通行運搬の便を計り、荒地を開墾するなどを計るのは、人として最も高尚な事業である。
「常に国憲を重んじ、国法に遵い」:我国には昔から国憲があったが、成文律になっていなかった。その理由は、国憲があって憲法がないことが、健全な人が自分が健全だと気付かないのと同様に、実は我国の誇りであり、我国民の美点だったからである。しかし国政が複雑になるに従い、政治上成文律が必要となり、明治天皇が五箇条の御誓文を宣し給わり、これが帝国憲法の基礎となった。国憲を今は憲法というが、古代には大義名分といった。
第十一回 一旦緩急あれば義勇公に奉じ、以て天壌無窮の皇運を扶翼すべし。是の如きは独り朕が忠良の臣民なるのみならず、又以て爾祖先の遺風を顕彰するに足らん。斯の道は実に我が皇祖皇宗の遺訓にして、子孫臣民の倶に遵守すべき所、之を古今を通じて謬らず、之を中外に施して悖らず。朕、爾臣民と倶に拳々服膺して咸其徳を一にせんことを庶幾う。
「一旦緩急あれば義勇公に奉じ」:国家に一旦危急の事変があれば、国民は正義の勇を奮って国家のために尽くすべし。義勇とは正義より起これる勇気であり、公に奉ずとは義勇を奮って国家のために一身を捧げることをいう。義勇奉仕は、外国に対するもの(北条時宗)、内乱に対するもの(楠木正成)、逆臣に対するもの(和気清麻呂)の三方面に発揮される。
「義勇奉公は忠君愛国に基づく」:前記のような勇武の民が現れる所以は、一に皇祖皇宗の徳を樹つること深厚にして、歴代天皇の鋭意君徳を養成し給いしに在る。殿下におかれましても、深くここにご留意ありて、君徳の御修養に努めさせ給わんことを望む。