そして得られた結果は、想定以上に明確な傾向を示しました。
UFCの選手に限らず、どの集団でも「男性は女性よりも純粋な腕の長さが長い」ことがはっきりと確認されました。
さらに、UFC選手のデータを詳しく見ると、腕が長いファイターほどKOやサブミッション(関節技など)の勝率が高いという相関が示唆されたのです。
ただし、打撃防御力やテイクダウン防御力への影響は限定的で、どうやら“攻撃面でのアドバンテージ”に特化している可能性が高いこともわかりました。
なぜこの研究が革新的と言えるのでしょうか。
大きな理由は、実戦さながらの格闘データを使い、生身の人間が戦う「本番の勝敗」にフォーカスした進化研究は非常にまれだからです。
しかも世界中の多様なサンプルと組み合わせることで、単に「格闘家が特別」という話に留まらず、ヒト全体の性差として腕が長いことが示されました。
これにより、男性の長い腕が“進化上の闘争”と結びついてきたという新たなシナリオに、より一層の説得力を与えているのです。
一方で、腕の長さが“投擲”にも有利に働く可能性は否定できません。
棒や石を投げる場面、さらには狩猟や道具の使用にもつながるため、腕長が闘争と狩猟の両面で有益だったシナリオも考えられます。
いずれにせよ「腕が長い男性」の特徴が残った背景には、何らかの競争上のアドバンテージが大きかったのではないか、という見方が有力になりました。
とはいえ、現代社会においては武器や戦術が高度化し、必ずしも腕の長さが勝敗を左右するとは限りません。
人間の歴史を見ても、より強力な武器の登場は“腕力”の価値を下げる方向に働いてきた節があります。
それでも今回のデータは、そうした変化が起きる前の長い時間軸の中で、男性の腕が闘争に適応した形で進化してきたかもしれない、という視点を強く支持しています。
今後は、たとえば武器の使用や他の身体的特徴との関連性を調べる、あるいは狩猟・採集社会でのフィールドワークを行うなど、さらに多角的なアプローチが必要となるでしょう。