関節技を極めたり、相手と距離をとって攻撃をかわしやすくしたりと、格闘における多彩なシーンでリーチの差が関与している可能性があります。

こうした想定は昔から語られてきましたが、実際に「腕の長さが戦いにおいてどの程度の優位性を生み出すのか」は、データに基づいて検証されていませんでした。

そこで今回、研究者たちは総合格闘技(UFC)のプロ選手たちから得られる詳細な試合成績と身体測定情報をもとに、腕の長さと勝率やKO勝利数などを関連づけて解析することにしました。

さらに、クロアチアの青少年やシンガポールの高齢者、アメリカ陸軍の大規模データなど、さまざまな集団の男女差も比較し、男性の腕が本当に「闘争に有利な進化の跡を残しているのか」を探るアプローチをとったのです。

統計が語る“長い腕”の破壊力――KOとサブミッションの関連

腕の長さは「男性の武器」として進化した可能性がある
腕の長さは「男性の武器」として進化した可能性がある / Credit:Canva

研究チームがまず注目したのは、総合格闘技(UFC)のプロ選手から得られる豊富なデータでした。

715名もの男女ファイターについて、単なる身長や体重だけでなく、「腕の長さ(肩幅から先の“純粋な腕のリーチ”を導き出す手法)」や「脚の長さ」、「試合での勝敗データ」「KO勝ち・サブミッション勝ちの数」などを細かく記録・解析したのです。

とくに興味深いのは、選手の肩幅を正面写真から計測する“ランドマーク”手法を取り入れ、腕全体のリーチをより正確に算出した点でした。

これにより、“腕の長さ自体”が試合結果にどの程度影響するのかを検証できるように工夫されています。

次に、年齢や文化背景、体格の違いを反映するため、クロアチアの思春期世代、シンガポールの高齢者、そしてアメリカ陸軍の大規模調査データなどにも範囲を広げました。

これら複数の集団から計約7000名の男女の上肢長や身長、脚の長さなどを比較することで、「男性の腕は女性と比べてどれほど長いのか」をより包括的に調べています。