戦後日本で社会人になった女性たちの就労条件の過酷さについて調べはじめて驚いたのは「女性はいつ頃から働き始めたの?」とか「戦前の女性は働いていたの?」とかの投稿が、さまざまなサイトでくり返しおこなわれていたことでした。
もちろん、純然たる力仕事を男性とどう役割分担するかについては工夫を重ねながら、太古の昔から女性たちは延々と働いてきました。ほとんどどこの国でも、農家では女性が男性に伍して一緒に働いていたのは当然すぎるほど当然のことです。
ただ、ふたつ例外がありました。ひとつは、世界中で支配階級に属する人たちのあいだでは男性がすべてを取り仕切り、女性は従順についていくだけで手も口も出さないのが理想とされていました。
もうひとつ、とくにひんぱんに戦争が起きていたヨーロッパ諸国では城壁に囲まれた都市内の商人や職人の家でも、女性はなるべく内にこもっていて表に出ないほうが安全という考え方が一般化していました。
その中で、江戸時代中期から世界に冠たる平和社会を築いた日本では都市が城壁に囲まれることもなく、庶民社会では商人や職人の家でも女性が労働力としてフル稼動していてカップルのあいだの平等性も非常に徹底していました。
男性が自分をオレと呼ぶ地方では女性も自分をオレと呼び、男性がワシと言う地方では女性もワシと言っていました。
よく男性が女性の伴侶のことを「奥さん」とか「家内」とか呼ぶこと自体、日本がいかに女性差別のひどい社会だったかの証拠だと主張する人がいます。まったくの誤解です。
「奥さん」という呼び方は武家社会の奥方から派生したもので、たしかに侍の家では奥方は自分の伴侶を「殿」と呼び、三つ指ついてお辞儀をし、つねに敬語で接していました。
でも江戸時代の都市化した庶民世帯では、男性が奥さんのことを家内と呼ぶだけではなく、女性も旦那さんのことをまったく対等に家内と呼んでいました。
古典落語などで絶妙に描写しているように、どちらがどちらに敬語を使うこともなく、平等な会話というより言い争いと表現したいほどズケズケものを言い合っていたのです。