1945年の3月3日、内大臣だった木戸幸一はーー

木戸は宗像〔久敬。日銀〕に、ソ連は共産主義者の入閣を要求してくる可能性があるが、日本としては条件が不面目でさえなければ、受け容れてもよい、という話をしている。 そればかりか、木戸は「共産主義と云うが、今日はそれほど恐ろしいものではないぞ。世界中が皆共産主義ではないか。欧州も然り、支那も然り。残るは米国位のものではないか」「今の日本の状態からすればもうかまわない。ロシアと手を握るがよい。英米に降参してたまるものかと云う気運があるのではないか。結局、皇軍はロシアの共産主義と手をにぎることゝなるのではないか」と述べ、宗像を驚かせている。

伊藤隆『日本の内と外』中公文庫、345頁 (強調を附し、段落を改変)

木戸ひとりが変だったのではなく、海軍重鎮の岡田啓介(元首相)・野村吉三郎(元外相)、皇族の東久邇宮稔彦(敗戦後に首相)、哲学者の西田幾多郎も似た考えだったとして、名前が挙がっている。錚々たるメンツである。

「世界中が皆共産主義」がまちがいとは言えなくて、米国も当時は社会主義的なニューディール政策だったし、英国も労働党政権への交替が迫っていた。いま風に言いなおせば、「世界中が皆自国ファーストではないか。トランプは異常な人ではない、叩き込めばわかる!」といったところか。

……もっとも、日本人の都合に世界が合わせる義理はないので、早くも木戸発言の1か月後には、ソ連が中立条約の実質廃棄を通告。同じように(?)大統領就任後のトランプも、変わらずプーチンとの妥協に向かっているが、しかし日本のセンモンカは「叩き込み」を諦めない。

2月16日。匿名のリプライの方がリアリズムを踏まえているのが笑えますね(笑えません)

つくづく不思議なのだが、同じ理屈で「プーチン(政権)に憤ったり、出てくる案を全否定したりするだけで終わってしまっては、何にもなりません」とも言えるのだけど、なぜこの人はそう発言せず、むしろ逆のことを開戦以来ずっと叫んできたのだろうか。