さらに、においや音、周囲の環境のわずかな違い、あるいは実行しているタスクなどが変わるだけで、これらの細胞を含むニューロン全体の活動がガラリと切り替わるケースが多数報告されています。

サルなどの霊長類でも似たような傾向が確認され、特定の場所と出来事ごとに使われる神経回路が別々になるというのが長年の定説でした。

ヒトの場合も、機能的MRI(fMRI)研究から脳の内側側頭葉が文脈に応じた活動パターンを示す可能性が指摘されています。

しかし、fMRIでは多くのニューロンの平均的な活動しか把握できず、単一の神経細胞が文脈と記憶内容をどのように切り分けているのかははっきりわかりませんでした。

生きた脳を直接調べるには倫理的な制約があるため、通常は難しいとされています。

そこで今回研究者たちは、難治性てんかんの患者さんが治療のために挿入した微小電極を活用し、海馬や扁桃体の単一ニューロン活動を直接測定するアプローチをとることで、その謎に迫ることにしました。

この方法なら、倫理的な問題を最小限に抑えつつ、人間でも「場所」と「出来事」が織りなす文脈的記憶が動物と同じように形成されるのかを確かめられます。

人間の意識の特別性を実証:人間の記憶システムは他種と根本的に異なっていた
人間の意識の特別性を実証:人間の記憶システムは他種と根本的に異なっていた / Credit:Canva

調査ではまず、患者さんが知っている有名人や場所の写真を大量に提示し、どのニューロンがどんな刺激に反応するかをスクリーニングしました。

その後、「人物A」「人物B」あるいは特定の「場所」に反応する細胞を対象に、4種類の短いストーリー(文脈)を作成し、被験者がそれらを覚えたり思い出したりする間の脳活動を記録しました。

すると、マウスやラットであれば環境が変わるとまったく別の活動パターンを示す海馬のニューロンが、ヒトでは驚くほど「文脈に左右されない」反応を示していることがわかったのです。

たとえば「人物Aに反応する細胞」は、その人物がクリスマスの話に登場しようと、誕生日パーティの文脈で出てこようと、ほとんど同じタイミング・強度で活動を示しました。