イギリスのレスター大学(UoL)で行われた研究によって、人間の脳はマウスやサルなど他の動物では見られない方法で記憶を保存している可能性が示されました。

たとえばマウスの場合、場所が少しでも違うと海馬の神経細胞の働きが大きく変化し、別の記憶として保存されることが知られています。

しかし人間の場合、場所や人物に反応する神経細胞は状況が変わっても同じような活動を維持し、記憶のコア情報として保たれていることが示されました。

つまりマウスやサルなど人間以外の動物では、環境が変われば神経細胞の活動が大きくシフトして別の記憶として扱われる傾向が強いのに対し、人間は大切な情報を固定し、後からその上にさまざまな状況を重ね合わせることができる、先端部分を交換できるマルチビットドライバーのような仕組みを持っていると言えるでしょう。

このような人間特有の記憶の保存方法は、私たちの意識や複雑な考え方にどのような影響を与えているのでしょうか。

研究内容の詳細は『Cell Reports』にて発表されました。

目次

  • 記憶に使う神経細胞は人間と他種で同じ動きをしているのか?
  • 人間の記憶メカニズムは他の動物と根本的に違っていた

記憶に使う神経細胞は人間と他種で同じ動きをしているのか?

私たちの記憶は、環境や状況が変わると同じ出来事でも違う形で思い出すものだと長く考えられてきました。

たとえば「転んで怪我をした」という出来事が山で起きたのか海で起きたのかによって、思い出す際に活性化する神経細胞の働きがまったく別になるという説もありました。

実際、マウスなどを使った研究では、海馬の神経細胞が「今いる場所」と「そこで起きた出来事」に応じて活動を切り替える事例が多数報告されています。

具体的にはマウスやラットの海馬には「場所細胞」と呼ばれるニューロンがあり、迷路のどの位置を走っているかによって発火パターンが精密に変わることがわかっています。