また、「こういう雰囲気を作ってはダメだ」という指摘は、Jリーグが特定の観客層(ゴール裏に陣取る熱狂的なサポーター)に偏りすぎており、幅広い層を取り込むことが出来ていないとも解釈できるのではないか。前沢氏はスポーツビジネスの成功には多様性や包括性が不可欠と考えており、疎外感を生む閉鎖的な環境は長期的な成長を阻害すると見ていると推測する。

Jリーグは1993年の創立以来「地域密着」を掲げ、サポーター文化を育んできた。しかし、前沢氏が感じた「疎外感」は、こうした理想が裏目に出ている可能性を示唆している。

熱心なサポーターが、チャント(応援歌)やコールなどで選手を鼓舞する応援はJリーグの魅力の1つでもあるのだが、初めての観客やライトファンにとっては威圧的で近寄りがたい印象を与えている可能性もある。川淵氏が当時にツイートした「(サポーターに)数が少なくても僕らだけで応援したいのにと言われて愕然とした」との経験談が示すように、Jリーグのサポーター界隈の排他的な雰囲気が垣間見える。


DAZN 写真:Getty Images

サッカーの試合に“プラスアルファ”の付加価値が必要

またJリーグのスタジアムは、試合観戦に特化している一方で、エスコンフィールドのような多目的性やエンターテインメント性が不足している。家族連れやデートでの利用を想定していないため「サッカーを見るだけの施設」となってしまい、結果、客層が限定されてしまうことになる。

サポーター依存の運営に頼るあまり、新規ファンを取り込む努力が後回しになり、さらにJクラブの熱心なサポーターは時として「ニワカはいらない」などという声をSNS上で発信し、これが新規ファン獲得の障害となっている。

それは数字にも現れている。Jリーグの観戦者の平均年齢は、2018年で41.9歳、2019年で42.8歳。少年時代にJリーグが誕生し、贔屓のクラブが生まれ、長年応援し続けているに過ぎないのだ。新規ファン開拓を疎かにした結果、来場者は高齢化し、リピーターしかスタジアムに来ないという現象に陥っている。