この試みはJリーグも大いに参考にすべきで、飲食店の充実、キッズエリアの設置、コンサートや地域イベントを開催するにより「サッカーを見に行く」以外の動機を創出できるだろう。

また、熱心なサポーターだけでなく、ライトファンや家族連れが気軽に楽しめる雰囲気作りも重要だ。応援を強制されない“まったりエリア”とも呼べるような観客席の配置、バラエティーに富んだ飲食店の誘致、初心者向けのガイドやイベントなど、初めての人でも疎外感を感じない工夫が必要だろう。

実際、J2のV・ファーレン長崎の新本拠地「PEACE STADIUM Connected by SoftBank」をはじめ、アリーナ・ホテル・商業施設・オフィスからなる大型複合施設「長崎スタジアムシティ」のような、商業施設や地域振興を組み合わせたモデルケースがJのスタンダードとなれば理想的だろう。


PEACE STADIUM Connected by SoftBank 写真:Getty Images

「観戦するだけの場所」から「体験の場所」へ

前沢氏の「疎外感」発言は、Jリーグが現状のサポーター中心の運営に依らず、より幅広い観客を取り込む必要性を訴えたものと捉えられる。彼の成功は、球場を「観戦するだけの場所」から「体験の場所」に進化させた。

Jリーグもこの視点を取り入れることで、新たなファン層の開拓と長期的な発展に臨むべきではないだろうか。具体的には、スタジアムの多機能化と包括的なファン体験の設計が鍵となり、これを進めるにはクラブ、サポーター、地域が協力する意識改革も求められる。

こういうことを言うと、数多くのJクラブは「ウチにジャパネットたかた(V・ファーレン長崎のオーナー企業にして長崎スタジアムシティの運営元)の真似はできない」と感じることだろう。

しかし、その長崎とて諫早市の「トランスコスモススタジアム長崎」をホームスタジアムにしていた時代には、駅からのアクセスの悪さを逆手に取り、スタジアムへの道すがらの商店街の協力を取り付け「V・ファーレンロード」と名付けた上で、グルメの無料提供などのサービスを行っていた。要はアイデア次第で様々なファンサービスが可能であることを以前から示しているのだ。