■両親を襲った怪異

火星に“チクタクUFO”出現!? NASAの探査機が捉えた不可解な物体
(画像=Image by Sandra Petersen from Pixabay,『TOCANA』より 引用)

祖父の死から2年が経ち、祖父が買った土地を売る算段がついた。50坪弱を残して不動産屋に売却し、同時に古い家を取り壊して建て替えることになった。工事の間、両親は当時新婚だった秋山さんのマンションに滞在したり、夫婦2人で沖縄へ旅行したり、それなりに楽しく過ごしていた。

「両親も叔母も信心深い性質ではありませんでしたが、犬の墓は、工事の業者に石を撤去してもらう前に、神主を呼んで一応お祓いしてもらったと言っていました。でも、ダメだったんですよ、そんなことでは」

「ダメだったというのは?」

 沖縄旅行の前日に、秋山さんの父は、工事中の業者から連絡を受けて工事現場に呼び出された。会社で勤務中に電話がかかってきて、夕方、藤沢市の家に行ってみたら、工事にあたっている業者は誰も電話など掛けていないと言う。

 薄気味が悪い思いをしつつ、秋山さんたちのマンションに戻ってきたわけだが――。

「その帰り道の間ずっと、父は犬につけられているような気がしていたのだそうです。うちに戻ってくると玄関でいきなり、塩を持ってきてくれと私の妻に大声で命じて、その剣幕がもう只事ではなかったので、妻が驚いて……。私が帰ってきたときは、母と妻と父が3人で、実家から持ってきた仏壇に向かって手を合わせていたので、私もびっくりしましたよ。玄関に入ったら線香の匂いがして、なんだろうと思ったら、揃って南無阿弥陀仏と唱えていたわけですからね」

 夜道で犬に追いかけられ、電車に乗っている間にも何度か犬の唸り声を聞いたと父から聞いて、秋山さんも恐ろしくなった。

「実家で祖母が飼っていたのは四国犬や紀州犬、またはそれらの血が混ざった雑種で、どれも中型犬だったと聞いています。しかし父は、自分を追いかけてきたのは動物園で見るオオカミのような大きな犬だと言いました。そんな馬鹿なと否定しても、父は頑として、足音や息遣いを聞いたし、振り返ったとき、シルエットを見たと言い張るのです。でも私まで震えあがったってしょうがないと思ったので、そんなこと言ってないでさっさと寝ろと両親に言いました。明日から沖縄に行くんだろ、と」

 翌朝、彼の両親は沖縄へ出立した。4泊5日の予定で、母にとっては初めての沖縄旅行だったという。この旅行は母の還暦祝いでもあり、両親は前々から楽しみにしていたのだが、水を差されたわけである。

「父も母もよく眠れなかったみたいで、特に父は夜中に何度も起きてトイレに立ったり、台所で水を飲んだりしていたようです。私は、自分の父はかなり合理的な考え方をする非常に現代的な男だと思っていたので、とても意外でした。しかし、それだけに、父が怯えている姿を見たくなかったというか……。なんだか受け入れたくなかったんですよ、そのときは」

 犬の影に怯えながら両親が沖縄に行った後、掃除機に動物の毛のようなものが詰まっていたと妻から報告を受けても、セーターの毛糸か何かだろうと言って受け流した。

 両親は沖縄旅行を楽しんで帰ってきた。「犬も沖縄にはついてこられなかったようだ」と父は笑い、母と並んで記念撮影した写真のうち何枚かに怪しい光が映り込んでいたことも、さして気に留めていなかった。

 むしろ母の方が帰ってくるなり、祖父母の墓参りに行くと言い出して、旅行前とは違う様子を見せていた。

火星に“チクタクUFO”出現!? NASAの探査機が捉えた不可解な物体
(画像=画像はUnsplashのJonas Gerlachより,『TOCANA』より 引用)

「何かあったの?と母に訊ねると、別に何もなかったと答える。なのに、様子はおかしい。気になるから、こちらもまた、変な夢でも見たのかと質問したら、それには答えず、私がタロウに噛まれたときの話をしはじめました」

「タロウ?」

「犬の名前です。そうだ、言っていませんでした。墓にはそれぞれ犬の名前が彫られていました。白、権太、コロ、茶目、チビ、タロウ……と」

 私はそこでヘミングウェイの犬の墓を思い起こして、秋山さんにキューバで見たその景色について話した。あの墓にも犬の名前が記されていた。

「へえ……。面白いですね。でもヘミングウェイは猫好きだったんですよね? 猫のお墓は無いんですか?」

「ええ。ガイドさんの説明では、猫たちは庭のそこかしこに適当に埋められているようだということでした。猫は最高のアナーキストだから自分が埋まるときも自由なのだと言って笑いを取っていましたっけ」

「なるほど。そうしてみると、犬の方が人に近い気がしますよね」