研究者たちは尾部の脳が本体よりも小さいのは、感知すべき情報が少なく、目的が交尾に限定されているからだと述べています。

実際、交尾を終えた尾部たちは、その後短い生涯を終えることになります。(ミドリシリスの交尾はメスの産んだ卵にオスが精子をかけることで受精します)

以上が、主に顕微鏡などを使った視覚的な観察によって得られた結果です。

交尾の時期になると目と脳を生やして泳ぎ去る尻尾の秘密を解明
交尾の時期になると目と脳を生やして泳ぎ去る尻尾の秘密を解明 / Credit:Canva . 川勝康弘

この不思議なミドリシリスの性質について「交尾専門の新たな脳をもった個体を作るより、自分で交尾しに行けばいいだろう」と思う人もいるでしょう。

確かに、地球上に存在するほとんどの動物は本体が交尾を行っています。

しかし、交尾のために危険な外界を移動することは自身の生存においてリスクにも繋がります。

ミドリシリスは交尾を専門の個体を生み出し、それに繁殖活動を任せることで、本体自身は安全な場所に隠れたまま生活を続けることが可能になるのです。

しかもその交尾用の尾部は何度でも再生可能と言うメリットもあります。

そう考えると、ミドリシリスの戦略もなかなかに優れていると言えるでしょう。

ただ視覚的な観察だけでは、どんな仕組みで尾部に頭部が形成されるかまではわかりません。

新たに頭部形成を指示する遺伝子

交尾の時期になると目と脳を生やして泳ぎ去る尻尾の秘密を解明
交尾の時期になると目と脳を生やして泳ぎ去る尻尾の秘密を解明 / Cresit:東京大学 . 環形動物ミドリシリスの特異な繁殖様式

尾部はどんな仕組みで頭部を獲得しているのか?

謎を解明するために研究者たちは6つのステージのそれぞれの段階にいるミドリシリスをすり潰し、体の各所でどんな遺伝子が活性化しているかを調べました。

すると主にステージ4からステージ5にかけて頭部を作る場所の決定にかかわる遺伝子が、尾部の前端部分で大きく活性化していることが判明しました。

またさらなる分析により、頭部決定遺伝子が生殖腺の発達に連動する形で活性化していることが示されました。