大事なものを盗んでいきました。

日本の東京大学で行われた2023年の研究によって、尻尾部分が交尾のためにちぎれて泳ぎ去る奇妙な生物「ミドリシリス」の秘密が明らかになりました。

尻尾部分は体内に精子や卵子を満載しているだけでなく、分離にあたっては本体とは別の、独自の「目」と「脳」を芽生えさせた「1個体」として泳ぎ始めます。

人間で例えるならば、下半身に新たな目と脳が形成されて分離し「交尾相手を探しに旅に出る状態」と言えるでしょう。

いったいどんな仕組みでミドリシリスはこの驚異的な生殖システムを構築しているのでしょうか?

研究内容の詳細は2023年11月22日に『Scientific Reports』にて「日本のミドリシリスの芽体形成に関する形態学的、組織学的、および遺伝子発現解析(Morphological, histological and gene-expression analyses on stolonization in the Japanese Green Syllid, Megasyllis nipponica (Annelida, Syllidae))」とのタイトルで公開されています。

目次

  • 目と脳を生やして泳ぎ去る「生殖器」
  • 新たに頭部形成を指示する遺伝子

目と脳を生やして泳ぎ去る「生殖器」

交尾の時期になると目と脳を生やして泳ぎ去る尻尾の秘密を解明
交尾の時期になると目と脳を生やして泳ぎ去る尻尾の秘密を解明 / Credit:Canva . 川勝康弘

海の中には、地上の生物とはまるで異なる、驚異的な進化を遂げた生物がひっそりと息づいています。

しかしゴカイやミミズなどの感情動物に属するミドリシリスの繁殖形態は特に異様です。

日本近海に生息するミドリシリスたちは交尾の時期になって体の後方で精巣や卵巣が発達してくると、その部分の前方部分に独自の目や触覚、脳が形成され、本体から分離して新たな1個体(ストロン)となって泳ぎ去っていきます。

交尾の時期になると目と脳を生やして泳ぎ去る尻尾の秘密を解明
交尾の時期になると目と脳を生やして泳ぎ去る尻尾の秘密を解明 / Credit:Canva . 川勝康弘