紀元前5世紀ごろ、現在のチュニジア北部にフェニキア人が建国した国家があった。それがカルタゴである。貿易立国として地中海を制覇し、スペインにもその影響を及ぼした。カディス(当時の名称はガディール)やマラガ(同マラカ)といった都市は、カルタゴ人によって建設されたものである。また、カルタゴは強力な海軍を有し、その軍事力も地中海世界に大きな影響を与えた。

カルタゴとイタリアの間にはシチリア島があり、カルタゴはこの島の覇権をめぐりギリシャと戦った。そして、その後、巨大化したローマと3度にわたり戦争を繰り広げた(ポエニ戦争)。第2次ポエニ戦争では、名将ハンニバルがピレネー山脈を越え、ローマ近郊まで攻め込んだ。しかし、最終的にはスキピオ将軍率いるローマ軍に敗北し、カルタゴはローマの従属国となった。

その後、カルタゴは復興を遂げたものの、最終的には武力を大幅に制限された状態で第3次ポエニ戦争に突入。武器を没収されたため手製の武器で応戦したが、圧倒的に不利な状況のもと敗北し、ローマによって徹底的に破壊された。

筆者がカルタゴの例を挙げたのは、日本が大東亜戦争で敗北し、米国に無条件降伏して以来、外交や国防において米国の顔色を窺い続けているからである。そこには独立国家としての主体性が見られない。さらに、「平和国家であることを示す」という名目のもと、軍備の強化をできる限り避ける政策をとっている。この状況は、経済的に繁栄したものの、強大なローマを前に軍事への関心を失い、平和ボケしていたカルタゴ市民の姿と重なる。

現在の日本では、「武力の強化」を否定的に捉える国民が多い。中には「非武装中立」という非現実的な考えを持つ者もいる。しかし、日本を取り巻く環境を見れば、これはあまりにも楽観的すぎる。日本の周囲には、中国、北朝鮮、ロシアといった核武装国が存在している。それにもかかわらず、日本国内では軍備強化に対する抵抗感が根強い。