私たちが知る“性”は、単に遺伝子を混ぜ合わせるための仕組みにすぎないのでしょうか。
ところが今回、イギリスのヨーク大学( University of York)で行われた研究によって、単細胞生物が厳しい環境をしのぐために“細胞を融合し、大きくなって生き残る”という戦略が、性の始まりだったことを裏付ける成果が発表されました。
いま私たちが当然のように享受している性的な繁殖システムは、飢餓や栄養不足など資源が限られた環境下で細胞たちが“資源を持ち寄り、パワーアップする”ために進化したというわけです。
これまで、性の利点といえば専ら“遺伝的多様性”に注目が集まってきました。
しかし今回のモデル解析が示すのは、単細胞が合体して“質量”をかさ上げすること自体が、過酷な状況を乗り越えるカギになっていたかもしれないという新しい視点です。
果たして“性”は本当に危機を乗り越えるための資源共有戦略として生まれたのでしょうか?
研究内容の詳細はプレプリントサーバーである『bioRxiv』にて発表されました。
目次
- 単細胞たちは危機に陥ると合体する
- 危機回避のための合体システムから生殖システムが分派した
- 合体中についでに遺伝子を分け合う……それが生殖のはじまり
単細胞たちは危機に陥ると合体する

多くの単細胞生物は資源が豊富なときは単純に細胞分裂を繰り返すだけなのに、環境が飢餓状態や栄養不足などで厳しくなると細胞同士が融合し、大きく頑丈な構造をつくり上げることがあります。
たとえば緑藻クラミドモナスでは、窒素源が乏しくなると“性”のスイッチが入り、細胞が融合して“休眠用の丈夫な構造”を形成する現象がよく知られています。
しかし、性の進化を説明する主な説は「遺伝子組換えによる多様性の獲得」が中心で、「どうして細胞同士が合体する必要があったのか」という問題はあまり深く追究されてきませんでした。