さらに、スリットを0.29秒角(arcsec)というごく細い幅にすることで、空間的に余計な光を拾わないよう工夫しています。

こうした高分散観測では、たとえば空気中の分子が特定の波長だけ光っている“線スペクトル”も精密に切り分けられるため、不要なピークを丹念に取り除くことができるのです。

また、矮小銀河それぞれにわずかながら固有の“ドップラーシフト”があるのも重要なポイントです。

もし暗黒物質がそこから崩壊して光を放っているなら、その銀河固有の速度によって光の波長がずれているはずなので、“背景由来の光”と区別しやすくなります。

Leo VとTucana IIは別々の方向にあり、それぞれ異なる速度で動いているため、同じ装置で似た観測条件下でも、もし同じ波長に信号が見えた場合は単なるノイズにとどまらないかもしれない、と推測できるのです。

実際の観測スケジュールは、まず7月にLeo Vを1時間、空の背景を30分。

そして11月にはTucana IIを1.2時間、背景を0.7時間という形で行われました。

さらにA0型星を標準星として観測し、大気や装置が波長によって吸収したり透過したりする度合いを補正して、各波長での光の強度をそろえています。

結果的に、1.8〜2.7 eV付近の暗黒物質が放つと予想される線スペクトルはほとんど検出されず、“限りなくゼロに近い”シグナルという結論になりました。

これは「もし暗黒物質がこの質量帯にあるなら、そう簡単には崩壊しない」、つまり非常に長い寿命をもつ可能性が高いという強い証拠にもなります。

具体的には、Axion-like Particle(ALP)の寿命について、少なくとも10^24秒(約3.17×10^16年、3.17京年)以上という下限値が示唆されました。

これは現在の宇宙年齢(約138億年)の数百万倍にも相当します。

観測データの中には、わずかにシグナルが強まっている箇所もありますが、天候や測定誤差などの影響を排除できないため、今後の追観測が待たれます。