1937年生まれの庄司薫は東大法学部卒で、先生は有名な丸山眞男である。実は庄司は、在学中の58年に本名の福田章二でデビューしていたが、そのとき酷評したのが、5つ年上の江藤淳だった。若手批評家のホープに、「こんな新人はダメだ!」と名指しで叩かれたのだから、つらかったろう。

因果はめぐるというか、その江藤も80年代にはWGIPの研究にのめり込み、文壇でもすっかり「右に振り切れちゃったおじいちゃん」扱いになる。いまで言えばネトウヨ老人だ。84年に共演(鼎談)した加藤典洋にも、そこを突かれてめっちゃ怒っているが、まぁ自己責任である。

一方で、学生時代に加藤がやっていた全共闘は「左に振り切れた」運動で、そのつるし上げにあったのが丸山眞男だ。庄司薫が芥川賞を受けた『赤頭巾ちゃん気をつけて』は、丸山の思想のノベライズでもあったから(※)、もしその頃に加藤が読んだら、庄司のこともバカにした気がする。

(※)一読で丸山だとわかるキャラが出てくるし、たとえば現行の文庫版の解説は、『丸山眞男』の著者である苅部直氏が書いている。