分からないところはオランダ語通訳に聞くと言っても、通訳は長崎にいるので、江戸にいてはそれも思うに委せない。源内のオランダ博物学の研究は行き詰ってしまった。所蔵の蘭書を翻訳するという計画も立ち消えになった。『解体新書』の刊行を知った源内は、「いろいろの物ごのみ」によって翻訳事業を成就できなかった我が身を嘆く自嘲気味の狂歌を詠んでいる。

源内と玄白は、まるで兎と亀のように対照的である。日本の蘭学において不朽の名声を残したのは、文芸や絵画、陶芸、宣伝広告などあらゆる分野で人々の注目を集めた才人の源内ではなく、亀のようにコツコツと努力した玄白の方であった。現代を生きる我々も学ぶべき教訓であろう。