しかし20歳を迎える頃、彼は大きな壁に突き当たる。トップ昇格どころかカスティージャでの出場機会もなくなり、3部のCFラージョ・マハダオンダ(2023-2024)、同じく3部のSDアモレビエタ (2024-2025)へと“都落ち”していき、今2024/25シーズンはついに4部のラージョ・カンタブリアへのレンタル移籍を余儀なくされた。

目標の4部残留が厳しい中でもスタメン起用されない辛い状況のままシーズンを過ごしており、今シーズン限りで中井とレアル・マドリードの契約は切れる。「レアル・マドリード」という肩書きにこだわった末の“悲劇”ともいえるが、すでに「終わった選手」との評価を受け始めている中井にオファーするJクラブは現れるだろうか。

その歩みはかつてアトレティコ・マドリードのユースで育ち、元スペイン代表FWフェルナンド・トーレスと2トップを組んでいたがトップ昇格はならず、東京V入りしたもののJ通算7シーズンで6得点に終わったMF玉乃淳(2009年引退)と重なる。

少年時代のプレー集を見ると久保を凌ぐテクニックを披露していた中井だが、結局は試合で使われてナンボの世界だ。「レアル育ち」という自負が、彼のキャリア形成の障害となったとすれば、これほど皮肉なことはないだろう。


以上の例から、いかに実戦経験が重要か一目瞭然だ。北原の才能に気付き、トップチームの試合に起用した以上、松橋監督には今後継続的に起用する責任が伴う。トップチームの試合を経験させたことで、今さらユースの試合に出場させたとしても、「新たな経験」には繋がらないからだ。

10代選手の起用は監督にとっても勇気がいることであろう。そこで敗戦に繋がる大ミスを犯せば「トラウマ」になってしまう危険性もある。そして起用した後も、多少のミスを受け入れながら、その成長を見守る必要が生じる。

J1第4節終了時点で2勝2敗とまだその実力がつかみ切れていない中で、FC東京は北原という中学生を戦力として組み込めるかどうか。アルビレックス新潟時代(2022-2024)若手育成には定評があった松橋監督の本領が問われていると言えよう。