戦争や大企業の不祥事で、「上からの指示でやった」という言い訳を聞くことがあります。

こうした弁明に「上からの指示だったら違法でもやるのか?」「自分の頭で考えろよ」と疑問を抱く人は多いかもしれません。

しかし、有名な心理学実験の1つミルグラム実験は、普通の人々が「権威の命令」に従い、非情な行動を簡単に実行してしまう事実を明らかにしました。

とはいえこれは戦後間もない50年以上前に行われた実験です。ネットで多様な意見を聞くことの多い現代の私たちが、人の指示で不道徳な行動を実行してしまうものでしょうか?

こうした疑問もあり、ミルグラム実験を再現した実験が近年の研究で実施されています。

果たして権威に従わせるのは時代の雰囲気なのでしょうか? それとも人間の本質なのでしょうか?

本記事では、最新の研究を基に、現代版ミルグラム実験の驚くべき結果を解説します。

目次

  • ミルグラム実験とは?
  • 現代で行われたミルグラム実験の再検証

ミルグラム実験とは?

ミルグラム実験が行われたのは1961年、第二次世界大戦後のアメリカでした。

心理学者スタンレー・ミルグラムは、人々がどの程度まで権威に服従し、倫理的な葛藤を乗り越えてしまうのかを明らかにしようとしました。

当時、戦後のニュルンベルク裁判では、多くのナチス戦犯が「命令に従っただけ」と弁明していました。

このような弁明がどこまで真実なのかを検証するため、ミルグラムは実験を設計したのです。

実験では、被験者は「教師」役を割り当てられ、もう一人の参加者(実際は研究者の協力者)が「生徒」役を演じました。

教師役は、生徒に記憶テストを行わせ、間違えるたびに電気ショックを与えるように指示されました。

実験の略図。Lが生徒役、Tが被験者、Eが命令する実験者/Credit:Wikimedia Commons

ショックの電圧は15ボルトから始まり、最大450ボルトに達するまで徐々に上がる仕組みとは被験者に説明されています。