実際に、AIの力だけで一定の水準の文章を作成できてしまうケースが増えているため、教育現場では「課題そのものの内容や形式を変える」「口頭試問やプレゼンテーションで個人の理解を確認する」など、さまざまな試行錯誤が始まっています。
こうした評価方法の見直しは、短期間で成果を出すのは難しいかもしれませんが、今後の教育システムにおいては避けて通れない課題だと専門家は指摘しています。
さらにこの問題は大学だけでなく、社会全体を巻き込んだ議論にも発展しています。
イギリスの科学技術大臣が「監督者がいれば子どもが宿題にChatGPTを使ってもいい」と発言したことで、教育の現場はさらに動揺を広げました。
多くの教員や保護者からは「子どもや学生が自力で考える力を失うのではないか」という危機感の声が上がっています。
こうした政治レベルの発言と教育機関の現実との間には温度差があり、学生や教員、保護者を含むさまざまなステークホルダーに混乱をもたらしているのが現状です。
HEPIのレポートが指摘するデジタル格差や評価制度のゆらぎは、単なる大学内部の問題にとどまらず、国家レベルでの政策や教育観の見直しをも促す事態へと発展しているといえるでしょう。
既に広がりつつあったAI分野のデジタル格差
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HEPIの調査からは、学生のAI利用が一様に広がっているわけではないことが明らかになりました。
特に際立っているのが「デジタル格差」と呼ばれる問題です。
まず所得の高い家庭出身の学生ほど有料AIサービスを積極的に活用する傾向があり、逆に経済的に厳しい環境の学生は、無料プランやAIツールにアクセスしづらいケースが多いことがわかっています。
また、男女間の差も顕著で、男子学生の方が女子学生よりもAIを使う割合が高く、さらに理系(STEM)専攻の学生ほど「AIを使って自分の成績が向上する」という認識を強く持っているという結果が出ています。