研究チームによると、この二つの経路(突然変異率の上昇と境界サーフィン)が同時に機能するのは、とくに中くらいのペースで環境が変わる状況とのこと。

激しすぎる変化ではどちらの戦略も追いつかず、逆にほとんど変化しなければ高い変異率を維持するメリットが薄れます。

結果的に「環境が程よく繰り返し変化する」状態こそが、進化が進化しやすさを磨く最適なレッスンになるというわけです。

たとえば沼地が定期的に乾いたり水没したりする環境にいる生命では、適度に水がある沼地状態と水が不足する乾燥状態、そして水没する状態に対応する多様な遺伝子を蓄積するようになります。

実際にDNAが学習するわけではありませんが、結果的には遺伝子に進化を促す情報が蓄積されていくことになります。

進化が進化するという視点

多様な生命が存在するのは地球環境が程よい過酷さを提供してくれたからかもしれません
多様な生命が存在するのは地球環境が程よい過酷さを提供してくれたからかもしれません / Credit:理化学研究所

今回の研究から得られる最大のポイントは、環境がある程度のパターンで変わり続けると、生物は「今の環境への適応」だけでなく「未来の環境へ備える力」を同時に発達させる可能性があるという点です。

ウイルスや細菌が薬やワクチンへの耐性を獲得する事例とも重なる部分があるかもしれません。

人間が投与タイミングを一定のリズムで行っていると、それに合わせて病原体のほうが“次の形質”を得やすい状態を保ち、結果的に耐性を強化してしまう危険性も指摘されています。

一方で、今回の実験はデジタル進化という仮想世界で行われたものであり、現実の生物は交配や多細胞性、社会的な相互作用など、より複雑なメカニズムを含んでいます。

しかし、突然変異と自然選択という基本原理は共通しており、長期的かつ大規模な世代交代を圧縮して観察できるデジタル実験には大きなメリットがあります。

将来的には、なぜ特定の生物やウイルスは爆発的なスピードで変異を起こし、他の生物はそうならないのか、といった疑問や、地球規模で進む急激な環境変動が生物の進化可能性の限界を超えつつあるかもしれないというシナリオも考慮されるでしょう。