今回の研究では、2015年4月から8月にかけて合計58日間、宮城県の牡鹿半島沖にある金華山で野生のニホンザルを観察し、特に成体メス11頭の行動に注目しました。
研究者たちは、合計205時間にわたる観察の中で、サルたちが「休息しているとき」と「エサを食べているとき(採食中)」のストレスレベルを比較しました。
この研究の鍵となったのが、「セルフスクラッチング(自分の体を引っかく行動)」です。
霊長類はストレスや緊張を感じると、この行動を頻繁に行うことが知られています。
そのため、スクラッチの回数を分析することで、サルたちがどの場面でストレスを感じているのかを探ることができるのです。
観察では、各メスの周囲1メートル以内にいる個体の血縁関係や順位関係、親密度なども記録し、休息中と採食中のスクラッチの変化を比較しました。
その結果、休息中は「まわりに誰もいないとき」にスクラッチが増える傾向が見られました。
これは、群れから取り残されることへの不安がストレスにつながるためと考えられます。
一方、採食中のスクラッチの傾向はまったく異なりました。
ただ周囲に他のサルがいるかどうかではなく、「血縁関係があるかどうか」が大きく影響していたのです。
特に、母親や姉妹がそばにいるときほど、スクラッチが増えることが判明しました。
これは、従来の「血縁相手といると安心できる」という通説とは真逆の結果です。
ではなぜ、仲の良いはずの母親や姉妹がストレスの原因になったのでしょうか?
なぜ「安心できるはずの相手」に緊張してしまうのか?

なぜ、仲の良いはずの母親や姉妹がストレスの原因になったか?
その理由のひとつとして考えられるのが、限られたエサをめぐる「競争」です。
血縁者とは普段から協力し合う関係にありますが、食事の場面ではそうはいきません。