そこで、「なぜ問題なのか」の1つの理由は、先に書いたが「ロシアの望む条件にぴったり」であることだ。逆に言うと、ウクライナが望んでいたこととは、正反対なのだ。
主要国が侵攻した国の意に沿うことに同意する・・・この状況は第2次大戦前夜をほうふつとさせる。
ミュンヘン会談と宥和策に酷似?
ヒトラー率いるナチス・ドイツは、1933年に国際連合の前身となる国際連盟を脱退し、2年後に再軍備を宣言した。1938年3月にはチェコスロバキア(当時)に対し、ドイツ人居住者が多いズデーテン地方の割譲を求めた。
1938年9月、ズデーテン問題を解決するため、英仏ドイツ・イタリアの首相らがミュンヘンに集まった。大きな犠牲を伴った第一次大戦の後で「また欧州で戦争を起こしてはいけない」という思いが強く、ヒトラーがズデーテン割譲は最後の要求と主張したこともあって、チェンバレン英首相らは併合を認める。
しかし、1939年3月、ドイツはチェコスロバキア全土を実質的に掌握し、9月にはポーランドに侵攻する。英仏が宣戦布告し、第2次大戦が勃発する。
チェンバレンは対独宥和策を大きく批判されることになる。
この文脈で、今回のトランプ政権の一連の言動を「対ロ宥和策」と呼ぶ人もいる。
「2014年以前の国境に戻さない」ことの意味
もしクリミア及びほかの支配地域を「ウクライナに戻さないこと」を認めてしまうと、主権国家(ウクライナ)(の一部)が他国(ロシア)に併合されてもよい、と認めてしまうことになる。
これは国際法に違反する・国際社会の規範を破る・・・といったレベルの話ばかりではなく、大きな懸念は「ウクライナのほかの地域・国に侵攻あるいは併合をしても大丈夫」という間違ったメッセージを与えてしまうことだ。
ロシアと国境を接する複数の国が近い将来、侵攻される不安が高まる。下の地図のフィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニアなどの位置を見ていただきたい。