こうした背景の中で、新しいタイプの合金が登場し、熱膨張を事実上ゼロに近いレベルに抑えることが可能になると、精密機械や宇宙開発、電子機器などさまざまな分野で革命的な応用が期待できます。

そこで今回、ウィーン工科大学(TU Wien)の理論研究チームと北京科技大学(USTB)の実験研究チームが協力し、熱に晒されても厄介な熱膨張を起こしにくい新合金の開発に成功しました。

熱膨張しない新合金の登場

熱膨張しない合金を開発することに成功
熱膨張しない合金を開発することに成功 / Credit:Canva

これまでインバー合金(主成分は鉄とニッケル)のように、「熱膨張をかなり抑えられる材料」は知られていましたが、その温度範囲や製造条件には限界がありました。

そこで注目を集めているのが、ウィーン工科大学(TU Wien)の理論研究チームと北京科技大学(USTB)の実験研究チームによる協力で開発されたパイロクロア磁石と呼ばれる新しいタイプの合金です。

特に、鉄(Fe)やニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、コバルト(Co)といった4つの元素を組み合わせ、従来のインバーよりも広い温度範囲でほとんど膨張しない特性を実現しています。

具体的には、3K程度の極低温(摂氏-270℃付近)から約440K(およそ167℃)に至るまで、ほぼ「ゼロ膨張」といえるほど小さな変化量しか示さないという報告があります。

この画期的な合金は、従来のようにきれいに揃った結晶構造ではなく、局所的な不均一(局所組成のゆらぎ)をあえて含むことがポイントです。

たとえば、素材内部では「わずかにコバルトが多い箇所」と「少ない箇所」が混在し、押し出されたFeがZr/Nbサイトに入り込むといった局所組成の乱れが生じます。

これらが温度変化に対して異なる磁気的挙動を示すため、通常の「熱で膨張しようとする力」が、一部で起こる「磁気の乱れによる収縮傾向」と絶妙に釣り合い、最終的に全体としてほぼ形状が変わらない状態を実現できるのです。