世界を変える合金です。

ウィーン工科大学(TU Wien)らが行った研究によって、金属にとって当然とされてきた「熱膨張」をほとんど起こさない新合金が開発されました。

通常、気温の変化によってエッフェル塔の高さが数センチメートルも変わるように、金属は温度が上がると膨張するのが当たり前です。

しかし今回の合金は、極低温から約167℃もの広い温度帯でも形状をほとんど変えず、精密機器や宇宙開発など幅広い分野での革命的な利用が期待されています。

果たして、この合金はどのような仕組みで“広がる力”を抑え込むことに成功したのでしょうか?

研究内容の詳細は『National Science Review』にて公開されました。

目次

  • 熱膨張は建築や精密機械の敵になる
  • 熱膨張しない新合金の登場
  • 熱膨張を打ち消す仕組み

熱膨張は建築や精密機械の敵になる

熱膨張しない合金を開発することに成功
熱膨張しない合金を開発することに成功 / これは新合金の内部構造をさまざまな方法でわかりやすく示した図です。 パネル(a)と(b)は、合金の原子がどのように整然と並んでいるかを、シンプルなイラストで表しています。まるで細かいレンガが組み合わさって頑丈な壁を作っているようなイメージです。 パネル(c)では、高精度のX線を使って、室温でもこの規則正しい構造がしっかり保たれていることが確認されています。 そして、パネル(d)から(h)では、電子顕微鏡などの先端技術を用いて、合金の中で各元素がどのように分布しているか、また微妙な違いがどのように現れているかが詳しく解析されています。/Credit:Yanming Sun et al . National Science Review (2024)

私たちが普段目にするあらゆる物体――金属、ガラス、プラスチックなど――は、温度が上がれば少しずつ膨らみ(膨張)、温度が下がれば縮む性質をもっています。

これを「熱膨張(ねつぼうちょう)」と呼びます。