ここまで見てきたように、「小さなブラックホールでも、ある程度の質量があれば人を殺傷しうる」という衝撃的な結論が理論上は導かれています。

では、そんなブラックホールが本当に私たちの日常に降ってくる可能性はどれくらいあるのでしょうか?

論文の試算によると、人体を致命的に破壊するほどの質量を持つ原始ブラックホールは、もし存在しても非常に数が少なく、宇宙全体から見てもごく稀な存在だと考えられます。

そのため、仮に地球近傍を通過したとしても、たまたま人間の身体を正確に突き抜ける事態が起こる確率は1年あたり 10のマイナス18乗といった極端に小さい値になると示唆されています。

サマージャンボ宝くじの1等が当たる確率が10のマイナス7乗(1000万分の1)レベルであることを考えると、この数値は宝くじの高額当選よりはるかに低いレベルの可能性となります。

そういう意味では、原始ブラックホールと遭遇する心配をする必要はないと言えるでしょう。

ですがSFでしか語られなかった小さなブラックホールの衝突と人体への被害を本気で数式化した点において、本研究は意味あるものと言えます。

壮大な視点から、「あり得ないかもしれないけれど、もし本当に起こったら?」を考えることが、科学の醍醐味なのかもしれません。

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元論文

Gravitational Effects of a Small Primordial Black Hole Passing Through the Human Body
https://doi.org/10.48550/arXiv.2502.09734

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。