一方、農耕が拡大し穀物中心の食生活が広がると、紫外線から合成されるビタミンDがより重要になり、肌を白くする遺伝子変異が優勢になったというシナリオも浮上します。
また、新石器時代以降にアナトリアやステップ地域からヨーロッパへと移住してきた人々との混血や大規模な人口移動も、肌色進化の流れを大きく左右したと考えられます。
今回の解析結果でも、地理的にも時代的にも「dark to black」の集団が長期間にわたり混在していた形跡が見られ、単純に「寒冷地だから肌がすぐ白くなった」という説明だけでは済まされない複雑さが浮かび上がりました。
さらに、古代の芸術作品や文献に描かれる人物像は、必ずしも実際の肌色を写実的に反映していない場合が多いとされています。
こうした歴史資料だけに頼らず、遺伝情報を直接解読することで、より確かな形で「当時の人々の外見」を推定できる意義は大きいと言えるでしょう。
今回の研究は、私たちが信じてきた人類史像――「アフリカから出た後、寒冷地に適応してすぐ白くなった」というシンプルな説を揺るがし、黒っぽい肌が何万年にもわたり主流だった可能性を提示します。
もちろん、個々のサンプル推定における誤差や未解明の遺伝子変異など、課題は残されています。
すべてを決定的に証明するには、今後さらに多くの発掘事例や高品質の古代DNA解析が必要となるでしょう。
しかし、今回のように数百人規模のサンプルから得られた知見は、ヨーロッパ人の肌の色に関する固定観念を再考させる上で非常に意義深い一歩となります。
今後の研究が進むにつれて、ヨーロッパのみならず世界各地の古代人がどのような肌色・髪色・眼色を持ち、どのような経緯で変化してきたのかが、ますます多面的に解き明かされていくことが期待されます。
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元論文
Inference of human pigmentation from ancient DNA by genotype likelihood
https://doi.org/10.1101/2025.01.29.635495