この新たな進化シナリオは、ビタミンDの合成効率を重視する従来説だけでなく、農耕の普及・移住・混血などの社会的・歴史的変化との関連についても再考を迫ります。

人類が長い年月を経てどのように姿を変え、なぜその変化が起こったのか――本研究の成果は、人類史そのものを根本から見直す新たな材料になるでしょう。

白人は思ったよりも最近になってうまれた

3000年ほど前までほとんどのヨーロッパ人の肌は黒かった
3000年ほど前までほとんどのヨーロッパ人の肌は黒かった / 人物はイメージです/Credit:clip studio . 川勝康弘

今回の研究で対象となったのは、4万5000年前から1700年前にかけてヨーロッパ各地で暮らしていた、合計348人分の古代DNAです。

旧石器時代から中石器時代、鉄器時代に至るまで、時代も地域も異なるさまざまな人骨・歯からDNAを抽出し、解析しています。

古代DNAは保存状態が悪かったり、外部汚染が生じていたりすることが多いため、研究チームは厳格な手順のもとDNAを取り扱いました。

また、法医学的プロファイリング(通常は犯罪捜査で犯人の身体的特徴を推定する手法)を応用することで、肌・目・髪色を推定しました。

ただし、カバレッジの不足や部分的な欠損もあるため、複数の方法で誤差を補正しながら結論を導いています。

その結果、分析対象となった348人のうち約63%が現在の分類でいう“dark to black”にあたる濃い肌色だったと推定されました。

これは当初の予想を上回る割合で、アフリカ起源の濃い肌色がヨーロッパに渡った後も長い期間にわたって維持されていたことを示唆します。

対照的に、“white”あるいは“pale”と推定されたのはわずか8%ほどで、残りは濃い色と薄い色の中間(intermediate)に分類されました。

つまり、一般にイメージされがちな「ヨーロッパ人は寒冷地に適応して早期に白くなった」という図式とは裏腹に、実際には黒っぽい肌を持つ人々が大勢を占めていたわけです。