なぜ症例報告ではエビデンスとして不十分なのかと言いますと、一つ一つに事例では、因果関係のある事例なのか、偶発的事例なのかを原則的に判断できないからです。WHOの因果関係評価マニュアル(p.10)では次のように記載されています。

At the individual level it is usually not possible to establish a definite causal relationship between a particular AEFI and a particular vaccine on the basis of a single AEFI case report.

AEFI : adverse event following immunization

個人レベルでは1件の接種後有害事象報告に基づいて、特定の有害事象と特定のワクチンとの間の明確な因果関係を立証することは通常不可能である。

コロナワクチンと有害事象との因果関係を検証するには、レベル3以上の研究が必要です。日本の副反応検証の最大の問題点は、レベル3以上の研究がほとんど無いということです。コホート研究としては、Takeuchiらの論文があるだけであり、しかもその研究は一つの都市に限定した規模の小さいコホート研究なのです。

「国によるコロナワクチン副反応の検証は不十分だ」という主張は、しばしば耳にしますが、では具体的に何をするべきかについて的確に提言できている人は多くいません。

日本においての個々の症例を集め直して検討し直すということは大切ですが、それで検証が十分になるわけではありません。繰り返しますが、レベル3以上の研究をしないと学問の世界では評価されません。2011年、 米国FDAは因果関係評価の大転換を図り、 評価の際には疫学的分析を重視するようになりました。

厚労省は、なぜ「重大な懸念はない」と判断するのか?

この判断を下すには、日本のデータを用いた疫学的分析が必要です。報告バイアスがある報告事例データのみより判断することは適切ではありません。つまり、死亡報告事例が多ければ「重大な懸念がある」と判断されるわけではないのです。また、救済認定された死亡者数は900人を超えていますが、厳密な因果関係を必要としない認定であるため、これも判断の根拠とはなりません。