ところが、問題は「防火壁」。CDUが、“反民主主義”のAfDとは絶対に連立しないという決意を象徴的に表した言葉が、この「防火壁」だ。
では、CDUは防火壁の内側で、いったい誰とそれらの政策を実行するつもりなのか? たとえ自民党が5%の壁を越えられたとしても、2党では40%にも届かない。
防火壁のこちらにいるのはレッド・グリーンと左派党。どれも左翼政党だ。彼らと組んで原発再稼働や、移民・難民政策の厳格化などという話がまとまるはずもない。それでも防火壁を主張するCDUを見ると、ひょっとして、CDUとレッド・グリーンの間では、すでにカルテルのごとく、国民無視の妥協が成立しているのではないかという疑いさえ湧いてくる。
一方、反民主主義だのナチだのと言われているAfDは、ますます激しくなる誹謗中傷にもかかわらず、着実に支持を伸ばしている。おそらく、既存政党の主張を欺瞞だとみなす有権者が増えているせいだ。
ちなみにAfDは、筋の通ったエネルギー政策と、筋の通った移民・難民政策を10年も前から一貫して主張している唯一の政党だ。しかし、CDUはそれを、自分で自分の前に立てた無意味な「防火壁」で阻んでいる。
すでにドイツという大船からは、多くの企業が下船してしまった。それでも船は、これまで蓄積した富を浪費しながら、果敢に脱産業に向かって突進している。
脱出した企業はそう簡単には戻ってこない。いったい、国民の痛みがどこまで大きくなれば、ドイツ丸は旋回するのか。メルツ党首は、果たして船長が務まるのか?
ドイツの政治の混沌は、おそらく23日の選挙後も収まらず、さらに拡大するだろうと言うのが、私の予測である。