緑の党にとっての脱原発とは、ようやく叶った50年来の夢だ。しかも、それを成し遂げたのが、自分たちのハーベック経済・気候保護相。彼らが次期首相候補として担ぎ上げている英雄である。彼のせっかくの快挙を、産業の衰退だとか国民の困窮などといった一過性の“些細”な理由で崩せるわけはない。自党の偉大な業績は、未来永劫、歴史に刻まれるべきと、思っている。
ところが、自民党は産業界の惨状をこれ以上看過できず、「原発を動かし、エネルギー価格を下げよう」と提案。ただ、ショルツ首相にすれば、野党がそう言うならまだしも、自民党がいうのは沽券に関わる。結局、内閣は破裂。
自民党と緑の党との間に、エネルギー政策に関する重大な齟齬があるのは今に始まった事ではない。例えば2017年9月の総選挙の後、メルケル首相の下では、CDU、緑の党、自民党の連立交渉が進行し、この3党の連立はほぼ確実と見られていた。
ところが、最終的に交渉は決裂し、リントナー氏が「悪い政治なら、しない方がマシ」と言って退場。これにより、メルケル氏は念願だった(と、今では皆が知っている)緑の党との連立を叶えられず、緑の党は念願だった与党入りを棒に振った。皆がリントナー氏を恨み、メディアは自民党を「妥協のできないダメ政党」と決めつけ、囂々と非難した。
ただ、メディアが報じなかった破綻の主原因は、この時もエネルギー。当時、緑の党は、20基の火力発電所を即刻止めることを主張し、それに対して自民党は、原発と、さらに石炭火力まで急激に減らせば、電気の供給が保障されないとして強く反対した。
奇妙だったのは、交渉が暗礁に乗り上げていた10月、突然、主要メディアが、2020年のCO2削減目標がこのままでは達成できないという、すでにわかっていたニュースを大々的に流したこと。その原因は石炭火力のせいだと示唆する報道は、緑の党への強力な援護射撃となった。
そこで、リントナー氏は、どうにか減らせる火力の発電量は、20年までに3GW、最高でも5GWという試算を提出したが、緑の党は8〜10GWを堅持。そこで、交渉決裂を恐れたメルケル首相が、7GWという極めていい加減な妥協案を出し、緑の党がそれをすかさず受け入れた。そして、メディアが緑の党を、「最大の痛みに耐えて妥協」と褒め上げた。