「マッハカットオフ」とは、飛行機が音速(マッハ1)を超える速度で飛行しているにもかかわらず、衝撃波(ソニックブーム)が地上に到達しにくくなるという現象を指します。
もともと超音速飛行では、機体前方や後方で生じる圧力の急激な変化が衝撃波を作り出し、まるで“爆音”のように地表まで響くことが多いのですが、ある条件下ではその衝撃波が大気中で「折れ曲がる」ように上方向へ逸れ、地上に届かない場合があります。
まず知っておきたいのが、大気の温度や密度によって「音の速さ」が変わるという事実です。
ふつう、高度が上がるほど大気が薄くなり、気温も下がるため、音速は小さくなる傾向にあります。
すると、機体が「音速を超える」タイミングや衝撃波の形状が、高度によって微妙に変化するのです。
たとえば、水中に棒を入れたとき、棒が曲がって見える現象(屈折)を思い浮かべてみてください。
音波や衝撃波も、大気中の気温や密度が変わる“境界”に差し掛かると、進行方向がゆるやかに曲がる(屈折)という性質があります。
通常であれば、超音速機が作り出す衝撃波は円錐形に広がって地表に到達しますが、マッハカットオフが起こる条件下では、この衝撃波が下方向に向かわず上向きに逸れていきます。
結果として、地上では「ボーン」という衝撃音がほとんど聞こえないわけです。
とはいえ、「いつでもどこでも好きなように衝撃波が消せる」わけではありません。
気温や風向き・風速などの気象条件が揃っていることが鍵になります。
飛行高度や機体速度を上手に調整し、なおかつ大気予報を的確に読み込むことで、マッハカットオフを狙って引き起こすことが可能とされるのです。
今回、Boom Supersonic社が提唱する「Boomless Cruise」は、こうしたマッハカットオフの原理を活用し、“衝撃波を地表に届かせない”状態を作り出すことを目指しています。
高度な自動操縦技術と専用エンジン(Symphony)の組み合わせにより、飛行中の大気条件をリアルタイムに解析し、地上での騒音をほぼ感じさせない超音速飛行を実現するのが大きなポイントです。