ところがその後、ドイツの製薬会社で働いていた化学者ハインリッヒ・ドレゼルがライトの論文を目にし、「そうか、モルヒネをアセチル化すれば、強力な鎮痛薬が得られるのか」と気づきました。
こうして1898年にその製法に基づいた新薬が生み出されます。
これがかの悪名高き「ヘロイン」でした。
ヘロインはアヘンより強いモルヒネのさらに5倍もの効き目があり、強力な鎮痛作用がありました。
しかし一方で、アヘンが元々持っていた悪の力も凝縮され、今まで以上の強烈な気分の落ち込みと中毒作用を引き起こしたのです。
しかもヘロインはドイツやアメリカの薬局で普通に手に入るものとなり、新たな麻薬中毒者が路上に溢れかえりました。
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それでも諦めないのが科学者という生き物です。
今度はアヘンの中に含まれるモルヒネとは別の成分に注目し、これを抜き出して新しい薬を作ろうとしました。
この成分はケシが栽培されていた古代エジプトの都市テーベにちなんで名付けられた「テバイン」と呼ばれています。
1916年、ドイツ・フランクフルト大学の2人の化学者が初めてテバインから鎮痛剤を合成し、これを「オキシコドン」と名付けます。
オキシコドンはモルヒネやヘロインとは違って中毒性が低く、安全な薬と考えられました。
しかし科学者たちにはこれまで、アヘンの扱いに幾度も失敗してきた苦い歴史があります。
そこでモルヒネやヘロインのときとは違い、オキシコドンを使うことに非常に慎重になっていました。
「また中毒患者が続出するのではないか」と戦々恐々としていたわけです。
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ところが医学が発展するにつれて、モルヒネやオキシコドンに関しては末期患者の痛みを和らげる「緩和ケア」に役立つことがわかってきました(ヘロインは作用が強すぎる)。