そこでは、自分が「自分」であること、そして「自分以外」の存在を迅速に見分ける能力が、生命にとって最も重要な武器でした。

獲物を狩る捕食者も、襲いかかる敵も、この瞬間の判断にすべてを委ねていました。

その結果、自己認識が自然の中で急速に進化していったのです(Tooby & Cosmides (1992)、Buss (1995)、Pinker (1997))。

その後の進化の過程で、自己と他者を区別する能力は、さまざまな形で現れ、発達してきました。

例えばアフリカのサバンナを歩くライオンの場合、ライオンは自らの縄張りを厳重に守るため、他の群れの存在を敏感に察知し、時には容赦なく対抗します。

このような行動は、ただ単に「敵」と「味方」を識別するだけでなく、その区別が生存に直結する命運を左右するものであったことを物語っています。

実際、自分と他者を区別する能力がなければ、この世の全ての闘争は成立しません。

私とあなたは違う、私たちとあなたたちは違う、という認知は全ての争いの必要条件なのです。

また、昆虫の世界に目を向ければ、ハチやアリたちは、化学物質―フェロモン―を媒介とした極めて精緻なコミュニケーションシステムを発展させています。

彼らは、自分たちの巣やコロニーを守るため、微細な匂いの違いによって内集団と外部の侵入者を即座に見分け、闘争を開始します。

これらの生物は、自己と他者の区別がいかに闘争に不可欠であるかを、日々の行動に反映させています。

このような進化のプロセスは、今日の私たち人間にも色濃く受け継がれています。

古代の狩猟採集生活で、仲間か否かを迅速に判断することが生死を分ける状況であったように、現代においても私たちは無意識のうちに、他者を「内側(身内)」と「外側(その他)」に分ける認知の枠組みを持ち続けています(Tajfel, H. & Turner, J. C. (1979))。