一方、現代の消費者は健康志向や環境意識の高まりとともに、従来の生産方法に代わる新たな技術への期待を強めています。

精密発酵や微生物発酵など、動物に依存しないタンパク質生産技術が次々と提案される中、完全な代替手段としてはまだ確立されていないのが現状です。

たとえば、精密発酵は高品質な製品を生み出す一方で、設備投資やエネルギーコストが高く、規模拡大のハードルとなっています。

また、微生物発酵では、複数のタンパク質を同時かつ効率的に生産することが技術的に難しいという課題も指摘されています。

こうした背景のもと、近年注目を集めているのが「分子農業」と呼ばれるアプローチです。

分子農業は、従来の微生物や精密発酵とは異なり、植物を工場として活用する技術。

植物は広大な農地で栽培できるため、大量生産が可能であり、設備投資や運用コストを抑えながら、持続可能な生産体制を実現できる点が大きな魅力となっています。

今回、イスラエル発のスタートアップ『Finally Foods』は、従来の動物由来タンパク質生産に替わる新たな手法として、ジャガイモを利用した乳タンパク質、特に牛乳の主要成分であるカゼインの生産技術を開発しました。

AIが設計し人間が作る「ジャガイモミルク」

ジャガイモからミルクを搾る?ジャガイモに乳タンパク質を作らせることに成功
ジャガイモからミルクを搾る?ジャガイモに乳タンパク質を作らせることに成功 / Credit:Canva

乳タンパク質の中でも、カゼインはその機能性と栄養価から極めて重要な役割を担っています。

牛乳中の約80%を占めるカゼインは、チーズやヨーグルトなどの乳製品の製造において、凝固やテクスチャー形成の要となる成分です。

今回の革新的な開発では、まずAI駆動型の遺伝子工学技術を活用し、動物由来のDNA配列をジャガイモの細胞内に正確に組み込むことから始めました。

このDNA配列には、牛乳に含まれるカゼインというタンパク質を作るための「部品」(サブユニットのアルファ1、アルファ2、ベータ、カッパと呼ばれる部分)の情報が含まれています。