1985年に開催されたシドニー~メルボルン(オーストラリア)960kmレースでは、彼は2位の選手に対して1日以上の差をつけ、5日5時間7分で優勝しましたが、その初日に270kmを走破しています。
これは24時間走としてもワールドクラスのパフォーマンスです。

アメリカ臨床栄養学会誌に掲載されている研究によると、クーロスはその1日だけで1万3770kcalを摂取していました。

これは、成人日本人男性の摂取エネルギーが約2100kcal(平均値)であることを踏まえると、驚異的な食事量です。

多くの人が1日で1万kcal以上の食事をしようと試みても、胃もたれや消化不良、吐き気を感じてしまうでしょう。

実際、2019年の24時間走世界選手権に参加した11名のランナーを対象とした研究によると、レース中の摂取エネルギーが約8000kcalだったことからも、クーロスの胃腸の強さが際立ちます。

2008年、ハンガリーのバラトン湖一周212kmのレースで優勝したクーロス
2008年、ハンガリーのバラトン湖一周212kmのレースで優勝したクーロス / Credit: Bercese, CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

彼がレース中に摂取した食事には、ギリシャの伝統菓子やチョコレート、ドライフルーツ、ナッツ、果物、さらに蜂蜜やジャムを染みこませたビスケットなど、糖質が豊富な食品が中心でした。

ランニングのペースが速いほど消費カロリーは増加し、より多くのエネルギーを糖質から得ようとします。

一方、体内には脂肪は使い切れないほど貯蔵されていますが、糖質は限られた量しか蓄積できません。

したがって、ウルトラマラソンでは、レース中に糖質を摂ることがエネルギー源の枯渇を防ぐための鍵となりますが、多くのランナーは、自分が消費するエネルギーに見合うだけの食事を摂れません。

その理由は、運動中は交感神経が活性し、胃腸の働きが低下しやすいからです。

また、運動による筋肉の活動や発生する熱の影響で、内臓への血流が減少し、消化吸収が難しくなる上、ランニングによる揺れが原因でお腹を壊しやすくなることもあります。