フェスティンガー氏は、認知的不協和が生じたとき、人は自分の態度をどのように変化させるのか調べるため、1959年にある実験を行いました。
参加者はスタンフォード大学に通う71人の男子学生です。
彼らには、単純で退屈な作業(ボードにピンを挿入するなど)を1時間続けさせました。
そして作業後、参加者は順番を待つ次の被験者(実際はサクラ)に対して「作業は楽しかった」と嘘をつくよう依頼されます。
この実験のポイントは、このつまらない作業に対して「楽しかった」と嘘の感想を言わせる点にあります。
フェスティンガーの狙いは、作業と自分の発言に矛盾が生じさせることで、意図的に認知的不協和を発生させることでした。
そしてこの不協和を参加者がどうやって解消させるかに着目しました。
ここで実験では参加者を2つのグループに分け、”嘘の感想を言ってくれたことに対して”それぞれ異なる報酬を支払いました。
1つのグループは「1ドル」、もう1つのグループには「20ドル」を支払らったのです。
その後、参加者に対して「本当にこの作業を楽しめたか?」と本音の感想を聞きました。
すると、20ドルをもらった参加者は、「作業は退屈だった」と答えたのに対し、1ドルしか貰えなかった参加者は「作業は意外と面白かった」と答える傾向が強かったのです。
(対照群として嘘の感想を言わせなかったグループは「退屈だった」と答えた)
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ここで実験の流れと結果をまとめてみましょう。
結果
- 1ドルをもらったグループ → 「作業は楽しかった」と答えた割合が高かった
- 20ドルをもらったグループ → 「作業は退屈だった」と答えた割合が高かった
- 対照群(嘘をつかなかったグループ) → 当然ながら、「作業は退屈だった」と答えた
では、なぜこのような違いが生じたのでしょうか。その理由をフェスティンガーは以下のように解釈しています。
- 1ドルグループ
- 1ドルという低額の報酬では、「嘘をついた理由」として十分な正当化ができない。
- そのため、「作業は本当に楽しかった」と自分の認知を変えることで、不協和を解消した。
- 20ドルグループ
- 20ドルという高額の報酬をもらったため、「お金のために嘘をついた」と納得でき、不協和は発生しなかった。
- したがって、自分の態度を変える必要がなく、「作業はつまらなかった」と正直に答えた。