微生物が存在しないマウスのほうが、微生物と共生しているマウスよりも長寿かつ健康状態が良好であるという結果は、当時の常識からすれば非常に意外なものでした。
さらに多くの研究が積み重なるにつれて、私たちの腸内細菌叢は、若い頃は比較的安定しているものの、50代を境にバランスを崩し始めることが明らかになっています。
年齢とともに、元々健康を支える中核菌が減少し、代謝の乱れや炎症を引き起こすような菌が台頭してくるのです。
この現象を「ディスバイオーシス」と呼び、老化を促進する一因として注目されています。
たとえば2013年に行われた研究や2024年に発表された研究では、ディスバイオーシスの悪影響について述べられています。
また免疫の観点からは、腸内細菌叢を健全な状態に保つために、宿主(つまり私たち自身)の免疫系が24時間体制で働かなければなりません。
免疫システムは、微生物を監視し、不必要な菌の増殖を防ぎ、腸内の環境を整えるために多くのエネルギーを消費しています。
また、腸の粘液層を産生する細胞も、細菌が腸内から逃げ出さないように防衛するために絶えず働いています。
この「維持コスト」が蓄積すると、結果として体全体のエネルギーバランスが乱れ、老化が促進されるのです。
すなわち、善玉菌と呼ばれる微生物さえも、維持するためのコストが宿主にとって大きな負担となり、老化の原因となり得るのです。
彼ら(微生物)の本当の意図を知るには、宿主による制御が永久に解除されたときに何が起こるかを考えてみるとよいでしょう。
私たちが死を迎えると、腸内細菌はわずか30分ほどで血流へと進入し、全身の臓器を分解し始めるため、死後の体は内部から大きく膨張します。
普段は「共生関係」に見えるこの微生物たちも、制御の網が外れるとあっという間に私たちの組織を食い荒らし始めるのです。
だからと言って、殺菌剤を飲めばいいわけではありません。